********************************************************************** [HA06P] EP書き企画より『大きすぎるプレゼント(仮)』 ================================================== 掘り出し物 ----------  1999年12月初頭、紅雀院大学、文学部構内。  裏庭の片隅で、とあるものを前に相談している祐司たちの姿があった。  祐司     :「教授……何ですかこれは(汗)」  教授     :「ふふふ、すごいだろう」  祐司     :「一体どうしたんですか(^^;」  教授     :「11月の発掘ドキュメンタリー番組のプロデューサーがい         :たろう」  祐司     :「ああ、東吹利ニュータウンのはずれの発掘ですね」  教授     :「そう。その時の彼が、別の番組で余った『キズモノ』を         :手に入れる機会があったらしくてね。手に入れたはいいが         :処分に困ってたから、譲り受けたんだよ」  祐司     :「キズモノ……ですか? そうは見えませんけどね」  教授     :「まあこういうものだからね、キズと言っても些細なもの         :だろうし大切にすればすぐ治るだろうから。まあ我々とし         :ては儲けもんだよ(わっはっは)」  祐司     :「……で、どうするんですか? これを(^^;」  教授     :「うん。…………どうしようか」  祐司     :「(^^; 学内に飾るか、個人が引き取るか、でしょうねぇ」  教授     :「今日明日中に引き取り手を見つけてくれば、そのままそ         :の人にあげるよ?」  祐司     :「……本当ですか?」  教授     :「うん。あまり長引くと、人目に触れて希望者が殺到する         :だろうからね」  祐司     :「なるほど………………しかし(汗)」  教授     :「まあ、無理にと言うものじゃないから(笑)。考えておい         :てくれたまえ」  祐司     :「はい、わかりました」  教授     :「じゃあ、部屋に戻るから。……おお寒」(去っていく)  祐司     :「…………どうしたもんかなぁ(^^;」 処変わって、瑞鶴 ----------------  商店街の一角、書店瑞鶴。  近所の店がBGMに鳴らす「そりすべり」のメロディが、低くこちらの店内 にも流れてくる。  花澄     :「もうすっかりクリスマスだな……」  店長     :「寒くなると、みんな楽しいことが待ち遠しくなるんじゃ         :ないか」  しみじみと呟く声を、受ける声。  ……一瞬、間が空いて。  花澄     :「……そういうものですか?」  店長     :「お前にわかってもらおうとは思わん」  花澄     :「はあ」  と。  SE     :からからから  店長     :「いらっしゃい」  花澄     :「いらっしゃいませ……ああ、こんにちは(にこ)」  祐司     :「こんにちは(^^)」  花澄     :「今日は、もうお仕事は終わられたんですか?」  祐司     :「いえ、仕事はまだ終わってないんですが……と言うか、         :今日はどうなるんだろう(^^;」  店長     :「?」  花澄     :「??」  祐司     :「つかぬ事をうかがいますが」  花澄     :「はい?」  祐司     :「どなたかお知り合いで、もみの木を1本、引き取ってい         :ただけるような方はいらっしゃいませんか?(^^;」  はた。  花澄     :「……もみの木、一本といいますと……ええと」  ひょっと、手のひらを頭より高い辺りに出して、  花澄     :「この程度の、ですか?」  祐司     :「いえ……かなり大きいんです」  店長     :「とすると、あれですか? 時々デパートとかの前に飾ら         :れてるような、かなりでかい……」  祐司     :「そうなります……ね(汗)」  沈黙。  天使が、のたくたと瑞鶴の天井を往復する。  祐司     :「……いらっしゃいませんか(汗)」   店長     :「いや、それは場所を選びますね……うーん…(思案)…         :…松蔭堂か……」  花澄     :「無道邸か、風見アパート」  店長     :「風見アパート?」  花澄     :「あそこの玄関前」  ……門松じゃないっての(汗)  花澄     :「ぱっと思いつくのはそれくらいですけど……」  もう一度、沈黙。  三者三様に腕を組み首をかしげた上を、ころころと天使が戯れている、といっ た風情。  …と。  ユラ     :「…あのぅ…」  花澄     :「あ、ユラさん」  ユラ     :「久し振りに顔出してみたら…なんだか困ってらっしゃる         :から」  丁度入って来たところに、沈黙がぶつかったらしい。  首をすくめかげんに笑いながら云いかけ、ユラはあわてて祐司のほうにも会 釈した。  ユラ     :「あ、初めまして…すみません、お邪魔して」  祐司     :「あ、いえ…」  こちらも軽く会釈しながら、どなた?と花澄に目で問う。  花澄     :「あ、こちらいつも来て下さるお客さんで、堀川先生」  ユラ     :「先生?」(きょとん)  祐司     :「ああ、どうも初めまして。……いえ、紅雀院大で研究の         :傍ら教えてるもので。堀川祐司と言います」  ユラ     :「あ、それで…。なんだか失礼いたしまして。         :わたし、近くの『グリーングラス』って…ハーブショップ         :なんですけど、そちらのバイトで、小滝ユラと申します。         :どうぞよろしく」(ぺこ)  祐司     :「あ、こちらこそ」(深々)  ユラ     :「あ、あのそんなっ。わたしも、その、本業は学生ですし         :(笑)」  祐司     :「ああいや、そういうわけでは…(苦笑)。         :ところで、ハーブショップ、というと…クリスマスツリー         :やなんか、飾ったりなさいますか?」  ユラ     :「ええそれはもちろん…え、花澄さん?」  袖を引かれてそちらに振り向くと、花澄は苦笑混じりに小さく首を振っている。  花澄     :「(だめだめ、あのへんまで、高さ、あるみたいですよ)」  ユラ     :「(あらららららら。そーりゃ、だめだわ)」  視線と指先が通りの向かいの二階屋の廂のあたりを差していて、ユラは首を 竦めてちろりと舌を出した。  ユラ     :「店で扱うには…。中庭には出せるけど」  あそこ一応プライベートスペースだからみんなに見えないと勿体ないし、と 付け足し、もう一度首をかしげる。  ユラ     :「あとこのへんで思い付くのは…。付属病院かなぁ、うち         :の医学部の。小児科の先生とかちっちゃい患者さん達とか、         :喜ぶと思いますけど」  花澄     :「ああ、病院…それも、いいかも…」  ユラ     :「でも、せっかくのツリーだし、このへんのひとたちみん         :なで暗くなってから見にいけるようなところに落ち着くと         :嬉しいな、なんて。         :ツリーを予約しておいて、その下でささやかにお茶でも飲         :めたら、とか想像してしまって…つい」  そこまで云ってから、あわてて祐司を振り向き、勝手なことばっかり言って すみません、と早口でいいたしながら小さく笑った。  祐司     :「いえいえ……そうですね。飾って喜んでいただけるとこ         :ろでしたら、どこでも良いんですが……」 とりあえずきいてみよう ----------------------  祐司     :「まあ、どうやって運ぶとかは今の持ち主に確認しますけ         :ど……元々が『棚からぼた餅』的なものらしくて、今日明         :日中にご希望があれば、もみの木自体は無償でお譲りでき         :るそうなんです」  店長     :「成程……」  さてはてな、と、考えこむが、そうそう良い方法を思い付くわけでもない。  店長     :「えーと……無道邸の電話番号はあったっけ」  花澄     :「うん、多分ある筈だけど……ちょっと待って」  ごそごそと花澄が探し出す。  店長     :「今日明日中、ってことは、急いだほうが宜しいですね」  祐司     :「えーと、まあ」  店長     :「ちょっと、心当たりに電話かけてみますよ」  微かに苦笑して続ける。  店長     :「無道邸ならば…小滝さんの仰る条件に、かなり近いとは         :思うんですがね」  花澄     :「あ、あった」  分厚いファイルをめくっていた花澄が声をあげた。  花澄     :「ここです」  店長     :「あ、了解」  電話番号を確認し、レジの後ろの電話を取り上げる。  ちょっと考えて。  店長     :「……お前がかけたほうがいいか」  花澄     :「……………了解」  本屋が本以外の用件で電話をかける……ならば、確かに、知り合いがかけた ほうが良いだろう。  花澄     :「すみません、堀川さん。少々待って頂けますか」  祐司     :「あ、はい、構いません」  番号を打ち込み、しばらく。  呼び出し音は三回で途切れた。  前野     :『もしもし、無道ですが』  花澄     :「あ、もしもし。平塚と申しますが」  前野     :『ああ、花澄さんですね』  花澄     :「はい。あの……すみません前野さん、唐突なんですけれ         :ども」  前野     :『はい?』  花澄     :「クリスマスのモミの木、いりません?」  一瞬沈黙…  前野     :『……はい?』  花澄     :「あの、え〜っと…(汗)」  いきなりで訳の分からない人間と、出だしをとちった人間とが、あっちとこっ ちで唸りあい…  前野     :『つまり……クリスマスツリーが余っていて、引き取り手         :を探していると…』  花澄     :「えぇ、まぁ、そんなところです(汗)」  ほっと一息。  前野     :『そういう事なら、千影さんにお願いしてみますよ(笑)』  花澄     :「ただ…」  前野     :『?』  花澄     :「今日明日中に返事がもらえれば……と言うことらしいん         :です(汗)」  前野     :『ふむ……』  ぽっくぽっくぽっく、と思考タイム。  前野     :『そういう事なら…』  花澄     :「はい」  前野     :『今からお伺いしますよ(笑)』  花澄     :「あっ、助かります」  無事に交渉は終わり、挨拶を交わして電話を切る。  SE     :ちん☆  花澄     :「えっと、今から来られるそうで……」  ちょっと、沈黙。  花澄     :「え?」  ユラ     :「あのー…花澄さん?」  花澄     :「はい?」  ユラ     :「あの、ちょーっと気になるんですけど(汗)」  花澄     :「……はあ?(汗)」  ユラ     :「いえ、今の言い方だと、多分、モミの木の大きさって、         :伝わってないんじゃないかなーって」  沈黙。  花澄     :「………あら?(汗)」  SE     :ばっこん☆  花澄     :「って……店長っ」  店長     :「莫迦者。クリスマスのモミの木ったら、普通はせいぜい         :等身大だろうが」  花澄     :「えと」  店長     :「お前最初、堀川さんの話聞いてどう思った?」  花澄     :「あ……そか(汗)」  店長     :「あ、そか、があるかっ……かけ直せ」  花澄     :「はいっ(汗)」  大慌てで受話器を握り、もう一度かけ直す。  慌てるものだから、二度ほど番号を間違えて。  店長     :「……すみません、粗忽者の店員で」  祐司     :「…………(^^;;」  で……  花澄     :「…あの、もしもしっ」  煖      :『はい、こちら無道ですが?』  花澄     :「あの平塚と申しますが…あの、前野さんはいらっしゃい         :ますかっ?」  煖      :『マスターですか?あ、今、丁度出かけたところですけれ         :ども』  花澄     :「って……あの、呼びとめられませんっ?!」  煖      :『ちょっとお待ち下さいね』  そしてぱたぱたと足音、扉の音……  煖      :『申しわけありませんが、ちょっと間に合いませんでした』  花澄     :「………(頭を抑えている)」  煖      :『あの、何かご用件でしたらお伝えしますけど?』  花澄     :「いえ……遅かったです……」  煖      :『……はい?』  花澄     :「………前野さんに申しわけない……」  煖      :『…あの、何か?』  花澄     :「いえ…すみません、ご無理申しまして」  SE     :ちん☆  ……。  店長     :「…………(溜息)……まず、謝れ」  花澄     :「そーします……」  ふう、と溜息をついて。  店長     :「堀川さん、すみません。なんか余計に手間取らせてます」  祐司     :「いえ、まあモノがモノなんで(^^; こちらこそ、ご迷惑         :をおかけしてます」(申し訳なさそうに礼っ)  笑う訳にもいかず、困った顔の人々の上を、天使の群れがさらに盛大に通過 していって。  そのあいだにもお客が三人ばかり入ってきて、出て行って。  それから、店の外に車の止まる音がした。 どうやって運ぶ? ----------------  ユラ     :「…さて」  花澄     :「…えええっと…」  猫の動く気配。  扉が開いて。  前野     :「あ、どうも…例のモミの木、頂きに伺いました…っと!?」  いきなり目の前で深々と下げられた頭にでくわせば、うろたえもしようとい うもの。  花澄     :「あの…すみませんっ…その、私、大事なことお伝えする         :の、忘れてまして…」  前野     :「…は??」  祐司     :「いや、その木なんですが、だいたい高さが……」  と指で向かいの家の廂のあたりを指したのを見て、それからちょっと扉の外 を透かし見るようにして。  前野は視線を泳がせて小さく息を吐いた。  前野     :「…それは」  苦笑いひとつ。  前野     :「ライトバンで来ちゃいましたよ」  花澄     :「あ…ほんとに、申し訳…」  前野     :「ううん…どうしようかなぁ…」  どうしようかなあといったところで、数メートルの木をライトバンに積む訳 にもいかず。  ユラ     :「あ、そだ」  傍らで、ぽん、と手をたたいた。  ユラ     :「あの、堀川先生、その木って、今、どちらに?」  祐司     :「…ああ、まだ構内ですけど…」  ユラ     :「そこ、夜、入れます?」  祐司     :「…? まぁ、大丈夫だと思いますが」  ユラ     :「…よし」  きゅ、と握りこぶしひとつ。  ユラ     :「花澄さん花澄さん」  花澄     :「え?」  ユラ     :「なんとかなるかも…だから、夜陰に紛れて、取りに行く         :の。あたしが説得して、直立不動なり右手をあげるなり、         :その、木にポーズ取ってもらう。んで、花澄さんが、その         :…お友達のうちのどなたかさんに協力してもらって、木を         :支えてもらうなりなんなり…」  それくらいの洒落っ気はおありになるんじゃ、と言いかける。  花澄     :「…え?」  きょとん。  ユラ     :「っと……」  この場合。  ユラが「何とかできる」と言うのに関して、花澄も疑いを持つわけでは…… これは全然無いのだが。  花澄     :「(誰か協力できそうな友人っていたっけ(汗))」  花澄の沈黙に、ユラは、しまった、という顔になる。  どうも先走りが過ぎたか見当違いを言ったかしたらしい。  どっちにしろ…気まずい。  ユラ     :「ええっと…その」  あわててくるくる、と泳がせた視線の先がたまたま店と奥とを隔てる扉のと ころをかすめ、  ユラ     :「…あ」  譲羽     :「……ぢ(汗)」  大きく見張った金の瞳にぶつかる。  ユラ     :「…ええと…花澄さん?」  声をかけながら、隠した指先でそっと扉のほうを指した。 好奇心は…… ------------  お話は数分前にさかのぼる。  譲羽     :「……………………ぢい(たいくつだよぅ)」  今日は瑞鶴に花澄と共に来ている譲羽。……それはいいのだが。  一人で奥の部屋で「おるすばん」しているのは非常に退屈なもので。  譲羽     :「……ぢ(おおやさんとこにいこうっと)」  重大なる決心をして、瑞鶴を抜け出そう(こら)としたとき。  SE     :ざわざわ  譲羽     :「……?」  店の方から、大勢の人の話す声が聞こえる。  SE     :ざわざわざわ  お客さんと話をしているにしては、会話の様子は終わりを見せず。  SE     :ぶろろろろ……ばたん……からからから……ざわざわ  譲羽     :「…………ぢ(なんだろ)」  既にその時には、部屋から出るな、と言われていたにもかかわらず、店との 境の扉をそーーーっと開いていて。  ……と。  ユラ     :「…あ」  譲羽     :「……ぢ(汗)」  こうして目が合ってしまったのである(笑)。 ご対面 ------  花澄     :「……」  ユラの示す方向を見て、一瞬花澄がきゅっと口元を引き締める。  びくうっとして、金の瞳が引っ込みかけた……のだが。  祐司     :「……………?」  前野     :「おや、ゆずちゃんですか」  花澄     :「……………(ちょっと頭痛)」  揃っている面々、とりあえず花澄よりは勘がいい。  祐司     :「(今のは一体……)」  前野     :「……ゆずちゃんだと、出来ませんかね」  花澄     :「え?」  前野     :「もみの木の木霊と話すとか……」  花澄     :「…………」  花澄が無言で店長を見やり、店長の方も無言で肩をすくめる。  花澄     :「………ええと、堀川さん」  祐司     :「はい」  花澄     :「あの…ですね、ええと、世の中の……ええと、木霊とか         :いうものの存在って……ええと(汗)」  祐司     :「木霊、ですか?」  花澄     :「突拍子もないですし、あの、嘘っぽく聞こえるかと思う         :んですけど……あの、木霊っていうのがいまして」  譲羽     :「ぢいっ(憤然っ)」  ぴょいっと。  そこまで花澄が言った途端、小さな影が扉のところから飛び出してきた。  譲羽     :「ぢいぢいぢっ(嘘じゃなくってっ!ゆずは木霊で、木霊         :はちゃんといるのっ!)」  花澄     :「………………(額を抑えている)」  祐司の目がまん丸く見開かれて。  と言うよりこの場合は、点になった、と言った方が正しいかも知れない(笑)。  祐司     :「……人形?」  前野     :「……あ(汗)」  ユラ     :「あら(汗)」  譲羽     :「ぢいぢいっ、ぢいぢぢいぢっ(人形じゃないのっ! ゆ         :ずはゆずなのっ! 木霊なのっ! ひどいこと言っちゃだ         :めっ!)」         :(ぶんぶん手を振り回して力説)  祐司     :「(自信なさげに)……動いてる?」  花澄     :「(とても頭痛が痛い)………………ゆず(ため息)」  譲羽     :「……ぢ(……あ)(汗)」<ようやく気がついたらしい(笑)  店長     :「…………」(知らぬげにそっぽを向いている)  沈黙。  花澄     :(大きく溜息)  さてどうしよう、の状況を、長々続けてみても仕方がないわけで。  花澄     :「(えい、もう仕方ないっ)…あの、堀川さん」  祐司     :「………………は」  花澄     :「この子が、木霊なんです」  居直ると…人間案外強く出られるものである(苦笑)  おどおどと引っ込みかけた木霊の少女を、ぽんと抱き上げて。  花澄     :「同じ木、なんだし……もしかしたらこの子でも、何かお         :手伝いできるかもしれませんが?」 **********************************************************************